「天気の子」感想

新海誠監督の『天気の子』観てきました

例年より遅めの梅雨入り,雨の多い時期の今にぴったりの作品でした

ストーリー

まず,全体的な構成として起承転結がかなりわかりやすいストーリーになっていると感じた.

以下,覚えてる限りであらすじ

地元から逃げて東京にやってきた帆高.
生活に困窮しバイトを探しオカルト雑誌のライター業として住み込みで雇われる.
雇われる前のマック店内で陽菜と出会う.

風俗店で雇われる直前(?)の陽菜を街中で見かけ,衝動的に助ける
(この時,ゴミ箱から拾った拳銃を成り行きで使用し,そこを写真に収められ
捜索願いが出ていることもあり以降警察にマークされる.)

陽菜が小学生の弟と2人暮らしで苦しい生活をしていること,バイトをクビになったことを知り
陽菜の能力を知った帆高が『晴れ女』としての仕事を提案する
晴れ女としての仕事は東京が歴史的な豪雨が続いていることもあり人気が殺到

古くからの伝えで『天気の巫女』なるものの存在が発覚.
天気を晴れにする(変える)ことの代償があり,今までの力の行使に加え
都心部での長く続く豪雨を止め,晴れにするために力を使った陽菜が消える

また,この時帆高が陽菜の家にいることと
陽菜が帆高を匿っていることが警察に知れ
陽菜が消えた翌日に警察に補導される

が,『彼岸』に向かい陽菜を取り戻そうとする帆高は警察から逃走.
夏美の助けを借り屋上の鳥居から『彼岸』に向かい,陽菜を救出する

陽菜を助け出して以降東京では豪雨が止むことなく3年が経過し,
都心部の半分ほどが水没
帆高は保護観察期間3年との審判を受け,地元に帰り高校を卒業
以降は東京に引っ越し,雨の中で3年越しに陽菜と再会する

といった感じ.

基本的にはハッピーエンド
ヒロインとも再会できたし大きな罪も犯してないし.
東京が雨に沈んだことが犠牲といえば犠牲ですが
これくらいの犠牲がなければ逆に不自然だろう.

ストーリー構成がしっかりわかりやすく,
キャラもそこまでクセがないので(映画としては)優等生
といったイメージ.
しかしテーマはまったく優等生じゃなく,
世間とか現実とかにぶつける感情だとか身勝手さの肯定. って感じだった

年端もいかない子供がその場限りの感情で周りを引っ掻きまわしていく.
居場所を奪った大人に反抗してその場を必死で生きている2人.
そしてそれを完全に肯定するための演出.
テーマとしては一貫していて非常に良いと思った.

新海作品は『君の名は.』しか観ていないのであんまり特徴とかはわからないけど.
今作は前作よりも好きな部類だなと感じた.

世界観とか設定

相変わらず,晴れにする.鳥居で力を手に入れる.彼岸...などの
超常現象の説明はかなり不足している ように思える.
でもまあそういうものなのかな,と思うことにするしかないのかな.

しかし,晴れにする力や巫女とかは
まあ,これがないと物語の起こりすら描けないから
前提としてあってもいいけど,
彼岸に至り陽菜を救出する部分はちょっとご都合主義 だとも感じた.
仮に命を救った代償として雨が続く,が成立したとしても
今までの力の行使による空との一体化??
みたいなものが消えているのは不自然
な気もする.

キャラクターと行動原理

行動原理に納得できる良いキャラと
舞台装置のような印象を受けるキャラにはっきり分かれると感じた.

帆高

容姿,性格ともにあまりクセのない,16歳等身大の主人公.

物語の序盤でバイトを探すシーンや
マックで陽菜の優しさに触れるシーンなどの描写で
あまり目立って変な行動はしていないので
感情移入はしやすい.

夏美にドギマギしたり,
たまに理性より感情が優先して行動したり(銃を向けるなど),
陽菜へのプレゼントに悩んだりなどの描写から,
良くも悪くも高校1年生といった感じの性格であることが伺える.

おそらく今作の主人公の役割である
感情移入をしやすいキャラクターであり,基本的には良いと思うけど
地元を飛び出した理由の描写がもう少し欲しかった.

陽菜

年齢を偽って18歳だと言うが本当は15歳.
(年齢を偽っていたのは風俗店で働くため)
18歳にしては幼すぎるだろう...と思っていたので
15歳という設定には納得.

親がおらず,自分で弟を養っているため
15歳とは思えないほどのしっかり者.
序盤での料理を完璧にこなしているシーンから苦労が伺える.

晴れ女としての能力もひけらかさず,
主人公以上にクセのないキャラクター.
相当苦労をしているはずだがまったくそういった素振りを見せず,
番人受けするキャラだなーと感じた.

あえて粗を探すならば
クセが無さすぎて,個人的な好感を持ちづらいかな,とは思った.
陽菜が犠牲になることが受け入れられず帆高が彼岸に向かうシーンでも,
『陽菜が助かって欲しい』というより
『陽菜のような良い子が犠牲になるのは理不尽だ』
というような動機付けとなってしまった.

でもこれは正直難癖レベルだし,違和感も不自然さもなく良いキャラだと思う.

須賀

主人公を気にかけてくれる良い大人枠.

冒頭で帆高に奢らせるシーンなど,
欠点とか短所の描写もしっかりあるので魅力的に映る.
また, 『娘に会いたい』という行動原理もはっきりしていてわかりやすい のもgood.

娘に会おうとするが会えないシーンや,
火の粉がかからないように帆高を追い出すシーンから
現実の都合に追従する大人としての立場が見え,主人公との対比が映える.
また,大人の立場ながら帆高に寄り添い,理解を示していることで好感度が高い.

ラストの帆高の『会いたい』で娘に会いたい自分の気持ちと重なり
"良識ある大人"としての立場を捨てたシーンもすばらしかった.

それに何より, 小栗旬の声質,演技が文句なしに素晴らしい.
今作でトップクラスで魅力的なキャラだと感じた.

夏美

勤務先にいるアクティブなお姉さん.
帆高は須賀の愛人だと勘違いしていたが実際は姪.

主人公が等身大の高校1年生なら夏美は等身大の女子大生
思ったことをすぐに口に出し,セリフも割と感情的なので帆高とは割と対照的.

須賀のようにわかりやすい行動原理や強い欲求が提示されていないので,
(これから就職を控えているにも関わらず) 警察を敵に回してまで
帆高を助ける終盤のシーンには違和感を覚えた.
これまでの状況から考えても全くの説明なしで帆高に共感して助けるとは思えないので
もう少し肉付けがあると良いと思ったシーンのひとつ.

また,公開前から話題になっていた本田翼の演技だが,想像よりは良かった
『君の想像通りだよ?』のシーンでの演技は全体でもかなり悪い部分を切り抜いてあるので,
あのPVを観て演技力を判断するのはちょっと早いかもしれない.
が,それでもやっぱりちょっと不自然
評判は良いみたいだけど低すぎる期待値との差が出ただけなんじゃないかと思える.

行動原理の薄さ,演技も相まってあまり好きになれるキャラクターではなかった.

その他のキャラ


  • 予想より帆高を受け入れるのが速く.精神的にかなり大人.
    ホテルで見せる小学生らしさが微笑ましい.

  • 高井刑事
    時代遅れみたいな髪型をしているが CV:梶裕貴でめちゃ声がかっこいい
    若く義憤に燃える刑事,といった感じで良いキャラ.
    『現実の都合を重視する大人』としての立場を強く感じた.(故に帆高と対立する)

作画

君の名は.でも感じたが, 全体的にいち画面の情報量が多い
背景もアウトラインをある程度残し,
緻密に描かれたビル群などをあまりぼかさずに使っているため
視線誘導はライティングや色彩,カメラワークで行っている印象を受ける.
一枚絵や切り抜いた画面としては美しい.
が,この情報量の画面を2時間観るとさすがに疲れる

また,世界や現実に対するカウンターみたいなものが
テーマであるこの作品には大きな特徴がある.
それは, 『晴れと曇りの役割が逆』 だということ.

一般的な作品では,軽快なテンポや物事がうまくいっている状況では晴れ,
重く苦しい展開や物語が転じて主人公が窮地に立たされるシーンでは雨が降る.

だが今作では,晴れと陽菜の存在はトレードオフ
天気が晴れることは人柱である陽菜の力の行使を意味する.

だから,帆高にとって好転している状況でも空は曇り雨は降っているし,
陽菜が消えた翌日は大幅な場面転換かつ、この上ない快晴なのに,陰鬱な雰囲気が立ち込めている

この演出が本当にエモい.
『大人』たちは晴れで喜び,雨が降ると気分が落ち込んでるだろうけど
帆高や陽菜,視聴者は雨にも関わらず状況は好転していると感じている→大人・世間とは真逆のリアクション
雨を緻密に描画し,水滴が跳ねたあとにできる二次的な水滴まで描いていることで
天気としての『雨』を肯定的に描き, 現実に振り回される世間へのカウンターパートの象徴 となっている.

ここは本作の非常に大きな特徴かなと感じた.
他の作品では少なくとも観たことがないオンリーワンの魅力として映った.

また,ライティングも流石にめっちゃ良い.
もう一度観ないと詳しくはわからないけど,序盤の帆高が路地裏で猫(あめ)に話しかけるシーンの
頰に強く落ちるネオンの紫,この時の帆高の状況とも相まって都会の冷たさを感じて非常に印象的だった.

夕日など,暖色系の強い環境光で被写体を照らすシーンが多々あった『君の名は.』と異なり,
曇りまたは雨でのシチュエーションが非常に多いため被写体の固有色が映え,前作とは違ったライティングとなっている.
しかし見せるべきシーンではしっかり夕日をバックにフレアやブルームを飛ばしてくる.

あと3Dモデルを使ってカメラをぐるっと回すやつ,あれもちょくちょくやってるなーって感じ.
個人的にはこういう演出はめちゃくちゃ好き,という訳ではないので頻度が高くないのは良かった.
花火のシーンでのパーティクル処理とか要素がかなり多くてびっくり,本当に背景をぼかさないんだな...

また,花火大会以降の状況が転じていく前の伏線のようなカットも
(傾く地面などがはっきりと描写されていた,他は覚えてない)印象的.

まとめ

良いところ

  • 現実に自分の感情が潰されるなんてクソだ,というテーマ

  • テーマに沿い,晴れと曇りの"逆"の使い方が非常に面白い

  • 雨のシチュエーションが多いため,コントラスト低めのライティングが映える

  • 雨,水滴の表現が圧倒的に緻密で情報量が多い

  • 小栗旬

悪いところ

  • テーマが良いだけに帆高の行動原理(地元を出て行く)が薄い

  • 警察を敵に回してまで帆高の手助けをする夏美の行動指針の描写がない

  • RADの歌がマッチしていないように感じた(歌単体では良い)

  • 本田翼